『ひとり日和』
2007年 07月 28日
通勤電車の中で『ひとり日和』を読んだ。
芥川賞を受賞した一昔前の話題作だが、新聞や経済誌以外の活字に目を通すのは久しぶりだったので、一人の少女を主人公とする小説は新鮮だった。
帰宅してアマゾンの感想欄を見てみると、結構な数の批判コメントが寄せられていた。言われてみれば、その批判のすべてが的を射ているような気がしてくる。言葉が稚拙、人物の発言に深い意味がない、文学としての価値は低いといったようなことだ。
文学を一度でも研究対象として読んだことがある人にとっては、確かに少し物足りない作品かもしれない。金田さんの作品を始め、最近の芥川受賞作品に見る「今時の若者像」は上っ面を滑っているだけの印象をぬぐえないし、テーマは深いようでいて、審査員が言うほど深く掘り下げて書かれた作品だとも思えない。意地悪な言い方をすれば、今時の若者を理解しえないオジサン・オバサンの選考委員達が一生懸命背伸びをして「若者のことくらい分かってるんだから」と、選んだようにすら思えてしまう。
しかして。実は私は芥川賞の作品が少々軽くたって良いと思っている。読んだ人の琴線に触れる何かがあるのなら、それは書物として素晴らしいのだ。『ひとり日和』には随所にちょっとしたユーモアが見られたし、登場人物の話ぶりに独特の間があったことも気に入った。また、間損で不評を買っていた主人公の感情表現も理解できないでもなかった。何故こんな風にべた誉めるかというと、次の言葉に共感したから。
「見込みがなくても、終わりが見えていても、なんだって始めるのは自由だ。もうすぐ春なのだから、少しくらい無責任になっても、許してあげよう」
本来、私は見込みのないことには手をださない。例えば天文学者になるとか。そして終わりの見えている恋は嗅覚でもってはね除ける。例えば魅力を感じても深い関係に陥らないとか。だけど、実際の所私は何に対しても自由の身なのだ。良い結果が得られないにしても、経験したという事実が大切なのであって、才能がないと罵倒されたとしても好きなら天文学者を目指せばいいのだし、終わりが見えていたって好きならアタックすればいいだけの話。胸のうちにくすぶっている事柄も、言葉にしてはっきり明示されると雲間から陽がさすように物事はクリアになる。
小説として少し残念だったのは、主人公の言う「見込みがなく、終わりの見えている無責任な行動」が不倫を意味していたこと。自立・旅立ちを匂わせるシーンなのに、なんだかなあ。いい大人なんだし当人同士の好きにすればいいことなのだが、主人公がこれまでの恋愛でマイナス思考に苛まれ、親にも素直になれなかっただけに心配になってしまう。春――全ての始まりを意味する季節に、暖かな陽の光を受けて会いにいく人が既婚者だなんて、既に前途多難の様相を呈している。余計なお世話だが、彼女の「ひとり日和」が今後も続きそうで、若者の小説なのに救われないなあと思ってしまった。あるいは・・若者だからこそ得られる自由なのかもしれないのだが。
芥川賞を受賞した一昔前の話題作だが、新聞や経済誌以外の活字に目を通すのは久しぶりだったので、一人の少女を主人公とする小説は新鮮だった。
帰宅してアマゾンの感想欄を見てみると、結構な数の批判コメントが寄せられていた。言われてみれば、その批判のすべてが的を射ているような気がしてくる。言葉が稚拙、人物の発言に深い意味がない、文学としての価値は低いといったようなことだ。
文学を一度でも研究対象として読んだことがある人にとっては、確かに少し物足りない作品かもしれない。金田さんの作品を始め、最近の芥川受賞作品に見る「今時の若者像」は上っ面を滑っているだけの印象をぬぐえないし、テーマは深いようでいて、審査員が言うほど深く掘り下げて書かれた作品だとも思えない。意地悪な言い方をすれば、今時の若者を理解しえないオジサン・オバサンの選考委員達が一生懸命背伸びをして「若者のことくらい分かってるんだから」と、選んだようにすら思えてしまう。
しかして。実は私は芥川賞の作品が少々軽くたって良いと思っている。読んだ人の琴線に触れる何かがあるのなら、それは書物として素晴らしいのだ。『ひとり日和』には随所にちょっとしたユーモアが見られたし、登場人物の話ぶりに独特の間があったことも気に入った。また、間損で不評を買っていた主人公の感情表現も理解できないでもなかった。何故こんな風にべた誉めるかというと、次の言葉に共感したから。
「見込みがなくても、終わりが見えていても、なんだって始めるのは自由だ。もうすぐ春なのだから、少しくらい無責任になっても、許してあげよう」
本来、私は見込みのないことには手をださない。例えば天文学者になるとか。そして終わりの見えている恋は嗅覚でもってはね除ける。例えば魅力を感じても深い関係に陥らないとか。だけど、実際の所私は何に対しても自由の身なのだ。良い結果が得られないにしても、経験したという事実が大切なのであって、才能がないと罵倒されたとしても好きなら天文学者を目指せばいいのだし、終わりが見えていたって好きならアタックすればいいだけの話。胸のうちにくすぶっている事柄も、言葉にしてはっきり明示されると雲間から陽がさすように物事はクリアになる。
小説として少し残念だったのは、主人公の言う「見込みがなく、終わりの見えている無責任な行動」が不倫を意味していたこと。自立・旅立ちを匂わせるシーンなのに、なんだかなあ。いい大人なんだし当人同士の好きにすればいいことなのだが、主人公がこれまでの恋愛でマイナス思考に苛まれ、親にも素直になれなかっただけに心配になってしまう。春――全ての始まりを意味する季節に、暖かな陽の光を受けて会いにいく人が既婚者だなんて、既に前途多難の様相を呈している。余計なお世話だが、彼女の「ひとり日和」が今後も続きそうで、若者の小説なのに救われないなあと思ってしまった。あるいは・・若者だからこそ得られる自由なのかもしれないのだが。
by lamusique
| 2007-07-28 00:01
| 読書